第3回 続 M3A1グリースガンって日本映画にしか出てこないの?(2年ぶり・・・)

ところで次は邦画の話ですがその前に日本のステージガン事情について・・・

戦後の日本映画では実銃が割と気楽に使えた時期と厳しくなった時期があって、実銃がスクリーンに大挙して出ていたのは昭和30年代前半くらいまででしょうか?この辺の事情はくろがねゆうさんの「拳銃図鑑」(洋泉社)が非常に詳しいので、ぜひご一読を。警察の協力による実銃撮影なので警察が装備していないサブマシンガンのような長モノ等はさすがに戸井田工業などが作成したステージガンが使われました。中華民国軍の9mmパラベラムのバナナマガジントンプソンをコピーしたステージガンが有名ですね。もっとも戦争映画や特撮物などにおいて、自衛隊や在日米軍が協力してくれた映画では俳優が使うのではなく実際に隊員が使用するので、実銃が使用できる場合がありました。これについては別の機会に書いてみたいと思います。

日本におけるM3/M3A1の初めて使われた映画はどんな映画だったのでしょうか?私の知る限りでは、64年頃の東映劇映画版「忍者部隊月光」(土屋啓之助監督 多分64年 東映劇映画)ではないかと思います。この作品では敵のテロリストがモーターボートの上からフラッシュハイダー風電着発火器を付けたM3を撃つシーンがありまして、アップは1カットのみなのですが、例によってエジェクションカバーを閉めたままでの発火シーンは何とかならないもんですかね〜、カバーが開いているだけで充分マニアをうならせることが出来るでしょうに、惜しい!ちなみにM3の左側からのシーンなんでエジェクションポートは見えません。M3は当時MGCと輸入のマテルのものがありましたが、「忍者部隊〜」はMGCの協力によるものなので、当然MGCのネジ巻式タイプと思われます(なにせアップは1カットだけだし、よく分からん)。MGC製品は実寸に近く、マテルの方は本当に小さい子供向きの大きさでした。実は私はマテルの方を子供の頃持っていたのですが、殆ど印象に残っていません。これよりもマルサン製「ウルトラマン」の「スパーダーショット」を買ってもらったほうが嬉しかったなあ・・・
結局MGCのM3はゼンマイによる排莢がうまく行かず少数で生産中止になってしまいましたが、もう少し発売期間が長ければ、ステージガンとしてハドソンのM3A1との間を埋める事、つまり邦画の銀幕におけるマシンガンの長き不在を防ぐことが出来たのではないか思われて、非常に残念です。MGCや中田のMP-40が出てくる邦画もあるのですが、日本でMP-40はいまいちリアリティがないですね・・・


戦後の日本映画黄金期に出てくるサブマシンガンは、裕ちゃん(石原裕次郎)の63年の日活映画、「太陽への脱出」(舛田利雄監督)の、小林太三氏製作の2種類のリアルなトムスンを別格とすれば、ステージガンのトムスンM1928モドキが全盛でした。なんかデザインバランスが悪く妙に重量感のない、マズルフラッシュも電着でボワボワっと出るあのかっこ悪いトムスンは「007は2度死ぬ」(ルイス・ギルバート監督 1966年 ユナイト)にも出ました。1963年の宍戸錠の日活アクション「探偵事務所23 くたばれ悪党ども 」( 鈴木清順監督 )に出てくるマシンガンはデザインがトムスンじゃなくてハイドサブマシンガンかエジプトトムスンコピーにソックリ!まさか狙ったんじゃないよね?エジプトトムスンコピーはともかく本当にハイドだったのかな?資料が無いと適当に作っちゃってたからなあ、当時は。

日本映画でM3A1グリースガンがもっとも大量に出演したのは田中光二原作の「爆発の臨海」を映画化した75年の東宝作品「東京湾炎上」(石田勝心監督)ですね。コレ原作と映画、ラストが全然違うけどいいのかな?タンカーがテロリストに乗っ取られると言う話で、テロリストはM3A1とMP-40で武装しています。映画そのものはあまり緊迫感が感じられない冗長なものでしたが、最後の2分間の撃ち合いのシーンは日本のアクション映画の中では最高の部類に入るものだと思います。この映画で特記すべきなのは2種類のM3A1が登場することで、一つはレシーバーの長いハドソン・ベースのステージガン、もう一つは外観に手を加えていないそのままのハドソン・モデルガンのM3A1グリースガンが登場するのです。本来撃たないアップのシーンにのみモデルガンを使用し、撃ち合いのシーンにはステージガンを使うというのが普通なんでしょうけど、撃ち合いのシーンでもなぜかこの2種類を使い分けてはいませんでした。例えばケン・サンダースが撃つM3A1グリースガンは外見に手を加えていないハドソンのモデルガンで、水谷豊が銛に撃たれて死に際に撃つM3A1グリースガンはレシーバーの長いステージガンでした。もしかしてただ単にM3A1グリースガンの数が足りなくてステージガンとモデルガン、両方つかっちゃったのかな?でも電着マズルフラッシュは両方とも出てたからステージガン化はされてたはずだし???

このクライマックスの撃ち合いのシーンが夜の薄暗いキャビンなのでマズルフラッシュは強烈で、さらに凄いのがちゃんとエジェクションカバーを開けてる!それゆえ撃ち合いのシーンではエジェクションポートからもバックファイア出てます。火花程度だけどこれでもマニアはうれしいんですよね。内田良平がテロリストから奪ったM3A1グリースガンで水谷豊(テロリスト役なんだなこれが)を撃つシーンで、内田良平がM3A1グリースガンをかなりオーバーな取り回し方する演技(キックとか)が、いかにも銃とは無縁な人生を送ってきた銃に関してはまったくの素人と言った感じが出ていて良し。コレに比べて「WHITE OUT ホワイトアウト」('00年 東宝 若松節朗監)で 松嶋菜々子がAK-47を撃つシーンはなんじゃアリャ、全然反動もなしにAK-47撃つし。銃のプロなのかおめーはよ。監督とか何も言わんのか?ちゃんと演技させろよ、AK-47はかなりのキックバックなんよ。せっかく前半でセフティ・バーの伏線を張ってんだからそこらへんもキチンとやって欲しかった。

たびたび引用して申し訳ありませんが、1983年頃の「月刊モデルガンチャレンジャー」誌のくろがねゆう氏のコラムで、「規制直前に戸井田工業がハドソンのグリースガンを何丁か購入してステージガン化した」という記述がありますが、レシーバーの長いグリースガンのステージガンは75年のこの映画から撮影に使われていますので、実際にはもっと以前から使用されているのではないかと思われます。残念ながら私自身ハドソングリースガンが出てきた作品を「東京湾炎上」以前に見ているはずなのですが、記憶に自信がありません。

余談ですがこの「東京湾炎上」のなかで対策本部のシュミレーションとしてタンカー爆発シーンがあるのですが、その爆発シーンが後に「火曜サスペンス劇場」で西村京太郎原作、十津川警部シリーズの初期の作品である「消えたタンカー」(81年10月6日 日本テレビ 西村潔監督)の予告編で使用されました。なぜか本編では使用されていません。契約上の問題なのか単なる演出上のカットか?このTV化された「消えたタンカー」では夏八木勲(当時は夏木勲)が十津川警部を演じていますが、後の列車ミステリーの面影なんて微塵も無いハードボイルドな警部で、MGCのM16A1で次々と口封じの殺人を行う犯人役の谷隼人の頭を同じくMGCの44マグナム(まあ、S&W M29ですね・・・)で撃ち抜く凄い役柄でした。脱線しまくりでまたまた次回に続きます。

(2004/07/23) 


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