第1回「本当に泣かされる映像『Badday』」

(?なんかこのページがGoogleの検索で上のほうになっちゃいました。とーちゃんが「badday」って言葉をやたら使ってるからかしらね?このページには「Badday」の画像はリンクしていないんで、「Baddday」でググッて見てね。山のような「Badday」画像へのリンクが検索できます。by リンコ)

/最近私のPCの調子が悪くて困っている。

アプリケーションをPCに追加するたびにスタートメニューに勝手に増えていく常駐アイコンを落とし、スタンドアローンでの作業中にはボトルネックになるセキュリティソフトをネガティブにしているにもかかわらずとにかく最近は遅い。それほどの作業量ではないのにもかかわらずマルチタスクでの作業中にPCがフリーズすることが多くなり、作業に集中していて「保存」をクリックし忘れている場合(良くあることだが)は特に地獄である。ついこの間も、慣れないExcelで作った「本年度売り上げ換算額」リストとアメリカの友人に送るために苦労して英訳したWebコンテンツを完成間じかにダメにされ(された、のである)うつ病加減の私はひどく重い気持ちで同じ作業を繰り返す悲劇を味わったのである。

このような場合まず真っ先にののしられるか暴力を振るわれる恐ろしい立場にいるのがその目前にあるPCである。人によっては反射的にモニターにパンチを食らわせる人もいるんじゃないかのね?かく言う私も~なんだよこのやろ調でモニターにぐりぐりパンチを食らわしたりするほうであるが、思いっきりのパンチはお見舞いしたりはしない、モニターより自分のコブシが粉砕するのが目に見えているし。私はタイソンではない。
が、しかしフリーズといいあの「不正な処理を行った云々〜」のえらそーなエラーメッセージといい、思わずユーザーを暴力に駆り立ててしまうマシンはTVゲーム機を押さえてPCがトップであろう。

それを裏付けるデータとして、英ノバテック社の調査によれば、4台に1台のPCがそのようなユーザーの理不尽な暴力にあっているそうである。なぜ人は機械であるPCそのものに物理的な怒りをぶちまけるかといえば、PCのユーザーはPCに対し人格を与えるからである。自分のパートナーとして共同作業を行いながら、ユーザーのちょっとした「ミス」、あるいはユーザーの責任ではない物理的理論的原因による「フリーズ」などから今までの努力を台無しにされたとき、ユーザーはPCに対して友人(PC)の裏切りあるいは公僕(失礼な言い方ではないですよね?他意はありません)に融通の利かない官僚的な対応をされた時の様な非常に不愉快な感情を刺激される。データ完成間じかにいきなり「不正な処理を行ったので云々〜」などといわれると、本来自分がリーダーとして動きながら自分の片腕として働く信頼できる部下に目の前で自己作成の重要書類を破られて「バーカ」と舌を出されたくらい頭にくることである。信頼していた友人(あるいは部下)の裏切りくらい頭にくることはない。もうひとつは無意識にPCが所詮は機械でありフリーズする作業をした自分が結局は悪いのだという自己嫌悪をPCに自己投影するからである。さらにもうひとつはやはり無意識にPCは機械でありパンチを食らわしても殴り返してこないということも意識下にあるのだと思う。これを整理すると、フリーズ!

@なにしやがんだてめー(怒り)

Aああっ、結局は自分が悪い・・・(自己嫌悪)

B八つ当たり解消パーンチ(救いと解放)

という3つの感情がワンセットになってPCにパンチを食らわすのである。

現在広くネットで流通しているお馴染み「Badday」はネタ的には決して先駆けとは言いづらいが、ネットで普及させたという点において、やったモン勝ちのコンテンツであり、元ネタを知らない人々によって一種都市伝説化された傑作ビデオリップである。 監視カメラを思わせる固定カメラの前で作業中のビジネスマンが苛立ち、PCを叩き壊すこの416KBのショートクリップは、このコンテンツが発表されてからすぐに常日頃同じ感情を持ち続けるコンシューマーの心を捉え、瞬く間にEメール等で世界に広がり、このコンテンツを紹介するWebがいくつも開設された。配信の途中に元ネタのソースが抜け落ち、あまねく世界に知られる頃にはこの正体不明化した人物のPC破壊映像は、隠しカメラが捕らえた面白映像かやらせか、はたまたマイクロソフトの陰謀かと見る人の想像力をかきたてたのであった。日本においてもかなり早くからから知られていた動画ではあるが、私は1998年頃、インプレスの「インターネットマガジン」の色モノページでこれを知った。当時は社内のLANから画像をダウンロードすることが出来ず、私にとっては未公開の洋画のようなものであった。

今までは人生に絶望した警官(内田裕也)に団地のベランダから放り投げられ(「10階のモスキート」 雀洋一監督 83年)、暗号解読機能を持つがゆえにロジャー"ボンド"ムーアの007によってはるか地中海の崖下にブン投げられ("007 Your eyes only" 1981年 ジョン・グレン監督)、あるいはテロリストと戦うブルース"マクレーン刑事"ウィリスにデトネ−タを差し込まれたC4の重石(モニターだけど)に使われてエレベーターシャフトに落とされ("Die Hard" 1988年 ジョン・マクティアナン監督)、その他数々の撃ち合いや爆発に巻き込まれ飛行機ごと墜落し怪獣に踏み潰されはしたものの、PCそのものに怒り狂ったユーザーに破壊されたPCの映像はPCでのチェス・ゲームに負けた南極観測員マクレディ(カート・ラッセル)にバーボンのロックをぶちまけられ火を噴いたPCくらいであろう(後にマクレディはグロテスクな宇宙生命体"The thing"と戦うが、化け物よりこのPCのほうに露骨な不快感を表している。"The thing" 1982年 ジョン・カーペンター監督)

もともとこの「Badday」と呼ばれる作品は、アメリカはコロラド州ドゥランゴにあるロロニックス・インフォメーション・システムズ社で1997年頃に作成された『デジタルビデオ録画システム』を紹介するPRビデオの映像で、PCをぶち壊すブチ切れ男を演じているのは同社の出荷担当責任者、ビニー・リチャーディ氏という人物だそうで 、本人はPCを壊す性格とは180°正反対の好人物だそうである(by "Hot Wired Japan")。なぜ私がこのような文を書き始めたかというと、冒頭で書いたとおり苦労して作成したデータをパーにされたとき、PCに向かって「バカ」だの「死ね」だのPCにとっては痛くも痒くもない呪いの言葉を吐きまくっていたとき、同じ課の人間が「それならこれを見なよ」と渡してくれたFDがこの「baddday」のビデオクリップだったのである。さすがにネタ的に古くて丁重にお返ししたが、あまり仕事以外にPCに触れそうもない50代のビジネスマン諸氏にもこのビデオクリップが行き渡っているかと思うと、いかに世の中にPCが浸透し世の人がPCに振り回されPCがテクノストレスの元凶になっているのが良〜く分かるってなもんだ、PCなけりゃ仕事にならない、PCが世界の中心。もう完全にルイス・パジェット(H・カットナー)「トオンキイ」(The Twonky)の世界だよこれ。それを考えるとこの「Badday」のビデオクリップは本当の意味での"男泣き映画"(泣かされ?)といえるんではないですかね。本当はこのコーナー、本当に"男泣き映画"、たとえば「ワイルドバンチ」("The Wild Bunch" 1969年 Sam Peckinpah監督 WarnerBros)とか「メンフィスベル」("Menphis Bell" 1990年 Michael Caton-Jones監督 WarnerBros)とか「生きる」(1952年 黒澤明監督 東宝)とか「ドラえもん のび太と鉄人兵団」(1986年 芝山努監督 東宝)とかを取り上げようかと思っているのですが、ともかく本人が実際に泣かされた話(困ったという意味で)なので第一回はこんなヘンなビデオクリップを取り上げる羽目になってしまいました。次回はちゃんと"男泣き映画"を取り上げますからね。 (文:鈴木ユキ)

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